導入事例

埼玉県

業種
「公共機関」

未来の行政サービスを創る第一歩
「オンライン化の壁」を追求して作り上げたのは、
95%の人が「満足」を実感したシステムだった

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企画財政部 行政・デジタル改革課 DX推進担当
(左から)主事 佐野 史尭氏
主任 椎名 元氏
主査 並木 皓人氏
主幹 森田 康二朗氏
主幹 福田 智樹氏

首都圏で3番目の人口を擁し経済活動も活発な埼玉県。住みやすいとして上位にランキングする街を擁する一方で、農業が盛んなエリアや季節ごとに違った顔を見せる観光地を持つなど、多彩な魅力で人々を惹きつけている。同県の行政を担う埼玉県庁は、県民や地域の企業の利便性を高めるべくDX推進に取り組んでおり、その取り組みを支援するツールとして「カミレス」を採用いただいた。「カミレス」が同県の行政にどのように貢献しているのかを、取り組みを進める企画財政部 行政・デジタル改革課 DX推進担当の皆様に伺った。

記事の要約
  • 【課題】掲げたのは「ワンスオンリーの原則」 高いハードルを越える意識改革と、誰一人取り残されることのないデジタル化を実現したい
  • 【選定】クラウド化の流れをキャッチアップしてSaaSを選定 スムーズな導入実現の決め手は紙からのシームレスな移行だった
  • 【運用・評価】システムに「満足した」利用者は95%に 8割以上が大幅な時間削減を実感
  • 【今後】オンライン申請率の向上を図りながら、現場発信のDXを実現していきたい

【課題】掲げたのは「ワンスオンリーの原則」 高いハードルを越える意識改革と、誰一人取り残されることのないデジタル化を実現したい

住みやすい・子育てしやすいなどの声を集める人気の街を擁する一方で、特産物を産出する豊かな土地や一年を通じて多くの観光客を誘致するスポットも併せ持つ埼玉県。同県の行政を担う埼玉県庁は、県民や県内の企業の利便性を向上するDX推進に積極的に取り組んでいる。まずは、同県の取り組みについて、埼玉県庁でDX推進を担当する企画財政部 行政・デジタル改革課の森田氏に伺った。

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「私の所属する企画財政部 行政・デジタル改革課に"デジタル"がついたのは2020年でして、それまでは行政改革を中心に行う部署でした。すでに国も積極的にDXを進めていましたが、コロナ禍も重なり、さらなる喫緊の課題となりデジタル活用を行政に取り入れる部署となりました。"DX推進担当"という役割もその時にできたものです。」(森田氏)


同県のDXとはどのような考えのもと進められているのだろうか。


「私たちが進めているDXは基本的には庁内業務のデジタル化ですが、単にデジタル化すればいいというスタンスではありません。将来実現したい社会をイメージしそこにデジタルの力をどう活かすかという観点で取り組んできました。2020年から始めた取り組みは最初の3年で主にペーパーレスを中心としたデジタル化を行い、直近の1年半は業務プロセス自体にも手を入れるデジタル化をやっていこうという第2ステップに入っています。」(森田氏)


続けて、同県のDX推進計画の中で謳っている「ワンスオンリーの原則」について具体的に伺った。


「もともと国が掲げている『デジタルの三原則』に『デジタルファースト、ワンスオンリー、コネクテッドワンストップ』というものがあります。これを行政手続の観点でいうと、まず手続をするのにわざわざ窓口に来なければならないというのがある。この改善はデジタルファーストですね。次に、一度申請した内容は二回目に反映されるべきです。これがワンスオンリーです。さらに、すでに申請した情報が別の申請にも活かされること。これがコネクテッドワンストップですね。中でもワンスオンリーは、手続業務のデジタル化を進めていく上で必然的に基盤となる取り組みであると当初から考えていました。ここを常に意識しながら取り組んでいこうということで掲げているのが『ワンスオンリーの原則』です。」(森田氏)


県民や企業を顧客と捉え、デジタル三原則に則って顧客体験を向上させる、さながら市民CRM(Customer Relationship Management)を作り上げるような高い志でDXを推し進める同県だが、実際に取り組むにあたって課題としたことは何だったのだろうか。「これは行政手続をオンライン化するにあたり、どこでも共通の課題となると思いますが」と森田氏は話す。


「まず内部的な話でいうと、行政手続には押印や紙が必要といった法律的な縛りがあります。これはたしかに大きなハードルですので、行政としては『制度的に難しい』という見解に落ち着いてしまうのが実情ではないかと思います。このハードルを乗り越えて変えようとする意識を持つこと、これが前向きにDXを進めるために解決しなければならない課題のひとつでした。実際に紙を確認しながら申請する良さはここだよね、でも電子に変わったらもっと視認性を高くすることができるのでは、法的なところはこの形でカバーできるのではないかなど、一つひとつ具体的に考える。そのための意識改革が必要でした。次に対外的な話になりますが、デジタル化した時に利用者によっては適応が難しい層が必ず発生しますよね。いわゆるデジタルデバイドの解消も大きな課題としてありました。」(森田氏)

【選定】クラウド化の流れをキャッチアップしてSaaSを選定 スムーズな導入実現の決め手は紙からのシームレスな移行だった

同県はこれらの課題を念頭に導入ツールの検討に入る。カミレスを採用いただいた経緯について伺った。


「システム導入の検討段階では多くのご提案をいただきました。どの製品もそれぞれ特色がありましたが、中でもカミレスは面白いと感じていました。というのも、手続のオンライン化が進まない理由の一つは『様式が変わる』ことに抵抗があるからなんです。カミレスの『現行の申請様式をそのまま電子にできる』という特徴は、現場の担当部門に対しても馴染みやすいのではないかと考えました。やはり、実際に使う現場のモチベーションなくしてデジタル化はうまくいきません。また、利用者側も使い慣れた申請様式であれば、抵抗感をかなり小さくできるのではないかと考えました。」(森田氏)


森田氏と同部署で業務にあたる福田氏も次のように話す。

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「自治体では一般競争入札が原則で価格のみで決まってしまうんですが、今回はオンライン化による利便性の向上を考えると機能面の評価をしっかりとする必要があると考えていました。そのため、ご提案いただいた製品の機能をすべて聞いたうえで、外部の有識者にも入ってもらって総合評価をする形をとりました。カミレスは今まで使っていた様式がそのまま電子化されるということで、現場担当者にとっても自分の手続がどうデジタル化するのかイメージしやすかった。開発フェーズでも現場が話に入りやすそうだという点も大きな評価ポイントでした。」(福田氏)


森田氏は「Salesforceベースであることも大きかった」という。


「例えばオンライン申請にお金の決済を伴うような場合、システム開発にコストがかかりすぎるからできません、あるいは中途半端な使い勝手のシステムになってしまいました、というのは問題です。その点Salesforceベースであれば連携ツールも多く、将来的な拡張にも耐えられると思いました。また、ローコード・ノーコードツールであれば、いずれはある程度の開発は内製化もできるのかなと。そのあたりも重要視していました。」(森田氏)


さらに、当時埼玉県が提示していた「SaaSを第一候補として検討する」という方針について、その意図を伺った。


「実は埼玉県はクラウドサービスの導入に早くから着手してきた自治体です。オンプレミスでシステム構築するのではなく、クラウドシフトしていきましょうという動きはもともとありました。その中で、県としてクラウドサービスを立ち上げ環境を整備、6、7年前から我々のプライベートクラウドの中に新たなシステムを作り、サービス提供基盤としての活用を進めてきました。しかし、昨今の『クラウド・バイ・デフォルト』の流れの中で、もはや自分たちでプライベートクラウドを持つのではなくSaaSサービスを活用してく方がいいのかなと。どうしても自分たちで開発するとそのコストの維持が必要になります。多様なクラウドサービスが出されている今、必要なサービスをピックアップして活用していく方が、お金をかけにくい行政には合っているのではないかという考えのもと方針を打ち出しました。」(森田氏)


この考え方は行政の中ではかなり先進的だといえる。そのような取り組みにつながっているのは森田氏をはじめとする庁内の人材の存在があってこそだった。


「埼玉県庁には、生え抜きのデジタルに詳しい人材に加えて、民間企業でのSI経験のある人材が結構いるんです。私も民間経験者の一人です。先ほどの独自クラウドの話のように、埼玉県はデジタルに関する取り組みについては都道府県の中でも先頭集団にいると思っています。そんな中で、これからの行政はどうあるべきかを議論していくと、やっぱり世の中の流れ的に自分たちでシステムを持つ時代ではないなと。そういう流れをキャッチアップしていたから取り組みに活かせたんだと思います。」(森田氏)

【運用・評価】システムに「満足した」利用者は95%に 8割以上が大幅な時間削減を実感

こうして導入されたカミレス。どのように活用いただいているのかを、導入から開発・現場部署との調整などにあたる福田氏に伺った。


「今回カミレスを使ったオンライン申請システムを、3つの事務において導入しました。やはりシステム導入には一定のコストがかかりますから、ユーザーの利便性向上などしっかりと効果検証をしながら進めようということでスモールスタートしています。まずは建設リサイクルに関する届出、『埼玉県SDGsパートナー登録』の申請、県に対する文化振興関係のイベントなどの後援申請の3つの申請事務をオンライン化しました。これらを対象とした理由としては、一度の申請で終わりではなく、繰り返しの申請が多いからです。たとえば、SDGsパートナー登録については、一度登録したらそれで終わりではなく、定期的に進捗状況を報告する、あるいは登録の更新を行うことが必要になります。つまりワンスオンリーが効果的なものということです。以前行った申請をベースに情報を追加していってもらえば、行政は差分の情報を確認するだけでいいですし、ユーザー側も以前の申請書類を見ながら同じ情報を入力するなどの手間が省ける。このように反復性があり、申請件数の多い事務に活用しています。」(福田氏)


さらに導入の効果として「ノウハウの共有やデータの利活用ができるようになった」と続ける。


「システムの稼働が令和6年3月なので、現在4か月運用したところです。従来の紙での運用では、データを管理するには、申請いただいた後に一つひとつExcelなどに情報を手入力するという工程が必要でした。電子化されたことで申請された内容がそのままデータベース化され、申請数が積み重なればデータも蓄積されます。そのデータを分析することで、たとえば今後の政策の検討材料にできると考えています。従来の形式でも取り組んでいた部分はありますが、やはりかなりの工数を要する作業でした。担当部署からも格段に楽になったという声が寄せられています。」(福田氏)

また、同県は今回のシステム要件として「デジタル完結」を挙げている。ここについても伺った。


「デジタル完結とは文字通りオンラインですべて完結する仕組みのことです。申請に対しては、何らかの結果をお伝えする必要があります。さらに審査の中で申請者に確認したい事項が発生することもあります。これまではそうした確認を電話で行ったり、申請に対する通知も別途書面を作成して、メールでの送信作業を行う必要がありました。そこで、今回のシステムでは事前相談機能を実装した上で、最後の結果通知まで一連の手続をすべてオンラインで対応できるようにしました。申請内容をもとに自動的に結果通知まで作られる、一気通貫でシステムのみで完結できるというのが今回の特徴だと思います。」(福田氏)


このように、これまでの流れを大きく変えたシステムをリリースした埼玉県。同県はシステムの効果検証として、利用者にアンケートを実施している。

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「アンケートでは、約9割の方に『便利になった』と回答いただきました。具体的には『窓口に行かなくても良い』『いつでも都合の良いときに申請できる』『郵送の費用や手間が削減された』などを挙げており、我々が想定していた利便性向上のポイントを感じていただけているという結果になっています。システムの満足度についても95%の方に『満足』と回答いただいており、『非常に不満がある』と回答した人はいませんでした。」(並木氏)


「便利に感じた点も、過去の申請記録が活かされ付随する手間が省ける点を挙げる方が多い。まさにワンスオンリーの原則です。また、見た目や入力のしやすさに関する質問では87%の方に『わかりやすい』と回答いただいています。100%ではないので改善の余地はありながらも、当初課題としていたデジタルデバイドの点においてもかなりクリアできたのかと思います。」(福田氏)


定量的な観点でも、「申請時間がどれくらい短縮されたか」という質問に対して「2時間以上の削減になった」という人が35%という高い効果をうかがえる回答となっている。


「3人に1人の方が2時間以上削減されたと答えているのには私たちも驚きました。それ以外にも1時間以上削減が18%、30分以上が25%でしたので、約8割の方が大幅な時間短縮効果を感じている結果になっています。また、デジタル化による書類管理の手間の変化についても、8割以上の方は手間の削減につながっていると回答いただきました。」(福田氏)


利用者側の満足度だけではなく、今回対象となった手続を担当する現場からも便利になったという所感を得ている。とはいえ、新たなシステムの導入や業務手続の変更は、少なからずの影響を与えるが、スムーズな導入のポイントは何だったのだろうか。


「基本的に現場の担当者にも開発の段階からメンバーとして参加してもらいました。自分の担当業務の実態に合っているか、効率的になっているかをヒヤリングしながら進めることで、"自分ごと"としてとらえてもらえたと思います。ただ、システムに対する得意不得意や、紙で見ていた情報をモニターでチェックするなどの電子化への慣れには個人差もありますので、そのあたりは今後のシステム改修や研修などでフォローしていければと思います。」(福田氏)


また、昨年からプロジェクトに参画した椎名氏、今年4月に参画した佐野氏からは、スムーズな進行の一因としてオプロやパートナ―企業のサポート体制を挙げていただいた。

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「我々非エンジニアはシステムで実現したいことを伝えようにもなかなかうまく表現できなかったり、現場担当者からは実装困難な希望も挙がってきたりしました。そういう局面でも希望のシステムに近づけるために機能レベルに落とし込んでわかりやすく説明いただいたり、プロジェクトマネージャーとして難しい舵取りをしていただきました。そのおかげで参加しているメンバー全員が意思疎通しながらプロジェクトを進められたと思います。」(椎名氏)

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「私はシステム稼働の直後に参画した立場ですが、システムを熟知していない自分にもわかりやすく説明いただきました。また、基本的にレスポンスが早く、緊急対応が必要なシーンや時間外にもご対応いただけたりと、サポートの手厚さに助けられたと実感しています。」(佐野氏)

【今後】オンライン申請率の向上を図りながら、現場発信のDXを実現していきたい

今後の展望としてはどのような考えをお持ちなのだろうか。


「まずは今回対象とした申請と類似のものについては、適宜オンライン対応にしていきたいですね。システムの利用を難しく感じている一定の方にも配慮しながら、オンライン申請率の向上を図っていきたいと思います。また、効果検証でも良い結果が出ていますので他の手続にも拡大していきたい意向ですが、当然コストがかかってくる話なので内製化のバランスも見ながら進められればと考えています。」(福田氏)


「Salesforceも含めて、非IT人材にも非常に入りやすいツールだと思います。プログラミングが不要で直感的な操作で作りこめる点がいいですね。今後は自分たちでいくつか運用できるものを作り、そのノウハウを共有することで現場の職員自身が自分で取り組めるDXを実現できたらと思います。」(椎名氏)


森田氏は今後の行政サービスについて次のように語ってくださった。


「引き続き電子化の拡大に取り組んでいきますが、そこには『県民サービスをよりよくするにはどうしたらよいか』という前提があります。県民の利便性を上げていく、また申請されたデータを次のサービスにつなげていくことが私たちの目指すDXです。行政サービスのこれからは蓄積したデータベースをいかに運用し、より便利で安心・安全な生活環境を住民に提供していくことかなと思います。Salesforceやカミレスは、そういう取り組みを一緒に進めていけるパートナーだと期待しています。」(森田氏)


最後に、埼玉県と同じくDX推進に取り組む自治体に向けてのメッセージをいただいた。


「今回私たちが取り組んだオンライン申請は他の自治体でも課題とされているところが多いかと思います。そういうそれぞれが目指すところに向けて取り組んだ成果を示していくことで、お互いの参考になるのではないかなと今回お話させていただいています。ほかの自治体で画期的な取り組みがあれば、本県でも積極的に導入していきたいですね。」(福田氏)


「実は埼玉県には、以前別のツールで取り組んでうまくいかなかった経験があります。何が原因かなと考えると、UIの重要性に行き着くんですよね。各自治体で目指すところはあると思いますが、しっかりと作りこまれたその実現につながるツールを選ぶことが重要だと思います。また、多くのケースを経験しているところをパートナーに選ぶことも大切ですので、いろいろなところにヒヤリングすることをお勧めしたいですね。」(森田氏)

カミレスのサービス資料をダウンロードいただけます。